私、まさも。
今回は、主人公のまさもっていう感じかな。
そう。
今回の主人公はこの私。
マジック大好き、家庭科大得意の霜庭まさもです!
今日は、学年末テストが返される日なんだ。
超能力マジックの練習をしたから(たぶん)大丈夫なはず。
すると、先生(今の時間はちがう先生なんだ)が私を呼ぶ。
「まさも。」
私は、スキップしながらテスト用紙を取りに行く。
すると、聞き慣れた声が耳に飛んできた。
「まさも!!スキップしないでください!」
後ろを振り向くとそみこが腰に手を当て、仁王立ちしていた。
この、超カリカリキリキリしている子はかみかき そみこ。
一見、厳しい顔をしているけど、実はモデルをやっているんだ。
悔しいけど、かわいいんだよね。
普段はめがねで顔を隠してるけど、その瞳は栗色で優しい光が宿っている。
そみこは今日も、髪の毛を三つ編みにし、若草色のリボンでとめている。
スカートは膝下まであって、いかにも動きにくそう。
でも、スカートの色はリボンにそっくり。
そうだ、ちょっとそみこをからかってやろうかな。
そみこ、怒ると顔がゆでだこみたいに真っ赤になるの。
もう、爆笑しちゃうくらい!!
私はべーっと舌を出し、ニヤニヤと笑ってみせる。
「そみこってストーカーなの?そのわりにはめっちゃ目立ってるね。じゃあ、そみこだけのステージ用意してあげよっか?」
そして、パチンと指を鳴らす。
すると、そみこのところだけ床が盛り上がり、そみこの体が宙に浮き上がる。
そみこは見事にバランスを崩し、その丘を転げ落ちていった。
そして、床に頭をぶつける。
辺りを見てみると、みんな笑いをこらえていた。
私はもう一回指を鳴らし、床を消滅させた。
そみこは、やっと起き上がる。
そこからは、メラメラと炎が立ち上っている。
もう少し、からかおうっと。
私は笑いながらマジックの準備をする。
「あ、そみこ。前進から日が立ち上っている!!そみこの体が燃えないように水かけるね!」
そして私は手から水を噴射させる。
ザブーン!
波はそみこの方に襲いかかり、そみこをびしょ濡れにする。
そして、私は何食わぬ顔で机の上にあったテスト用紙を受け取る。
先生も呆然としちゃってる。
そして、我に返った先生に
「こら――!!教室をびしょ濡れにするなんて…………廊下に立ってなさい!」
と言われたのだった。
「まさも。この副、弁償してください。びしょ濡れじゃないですか!!私がもし、風邪をひいてしまったら誰のせいになるんですか!?さすがのまさももわかりますよね?」
今は、そみこのお説教中。
先生はテストの添削に忙しいからって代わりにそみこに頼んだんだよ。
ちょっと無責任じゃない!?
っていうか、無責任ってどういう意味?
まあ、いいや。
でも、そみこの言葉にはカッチーンときた。
私はそみこのくっだらない「風邪をひいてしまったら誰のせい」という問いに応える。
「そみこのせいでしょ。」
すると、そみこの頭から煙が噴射する。
「何で、私のせいになるんですか――――――――――!!!!!!!」
私は肩をすくめる。
「だって、注意してきたのはそみこでしょ。」
そみこは私をにらむ。
「だいたい、まさもがスキップなんかくだらない歩き方をするからです。だから、私は注意しなくちゃいけなかったんです。」
私はさらりとそみこの言葉攻撃をかわす。
「そんなんだったら、全部宇宙のせいになるんじゃない?っていうかそみこ、私が普通に取りに行っても、絶対に何かケチ付けてくるでしょ。今まで、テスト返しの時に注意を受けなかったことなんかないし。それなら、やっぱり何かケチ付けてくるそみこが悪いんじゃないの?」
すると、そみこの拳が震える。
「毎回毎回、注意しなくちゃいけなかったのはまさもが変な踊りとかしながらテストをもらいに行くからです!!」
うー、なかなかゆでだこみたいな顔になってくれない。
しかたない、もうちょっとからかおう。
「別に変な踊りしてても、テストを受け取るのは変わりないじゃん。そみこってひたすら勉強だけしか頭に入ってないんだよね。」
すると、そみこの怒りの絶叫が辺りに響き渡る。
「いい加減に、しなさーい!!!!」
でも、そんな大声に私は騙されない。
「いい加減にしないと、なに?なんかそみこ、できることがあるわけ?」
そみこは、いきなり私の服の袖を掴んでくる。
いつもの、柔道技だ。
「できることなら、あるんですよっ!」
そう言って、私を投げ飛ばす。
でも、それくらいの技だったら簡単に仕返しできる。
私は、宙を飛ぶと同時にクラッカーのゴムを引く。
パーン!
クラッカの紙吹雪とスーパーボールは、そみこめがけて直撃。
私は着地すると、そみこの目の前に行き、息を吹きかけた。
するとそれは煙になり、そみこに直撃する。
その間に、私は走って教室に飛び込んだ。
テストの結果、テストの結果!
返される科目は、算数、国語、社会、理科、家庭科、体育、道徳、音楽、魔法科。
私は、まず地震のある家庭科を調べてみる。
もちろん、家庭科は百点。
体育もいつも通り百点。
次は算数。
算数は絶望の点数だった。
今までの最低記録、5点。
確実に怒られる点数だ。
つ、次は国語。
国語は、やはり最悪な点数。
30点だった。
ま、まあ私にとっては普通の点数だし…………
そみこは、もしかしたらおまけしてお説教は無しにしてくれるかも。
社会と理科、魔法科は頑張って勉強したから、いつもより点数は高いはず。
そして、期待してテストの点数を見てみた。
なんと、社会と理科は両方とも90点!!
やったあ!!
でも、魔法科は。
「ご、59点…………」
うう。
頑張って勉強したのに。
音楽はどうかな?
音楽はあんまり勉強してなかったんだった…………
音楽は、やはりけっこうやばい点数。
47点だ。
最後は道徳。
道徳は50点だった。
い、いつもの私にしては上出来かな?
あはははは…………
すると、そみこが戻ってきた。
げっ、この点数見せたら結構やばい。
しかも、よりによって5点の算数が一番上。
そしてそみこが運悪く私のテスト養子を見てしまう。
そみこは、点数を見た瞬間に今までで一番大きい雷を落とした。
「なんなんですか、この点数!!!!勉強しろってあれほど言ったのに。5点なんて!絶対に許されない点数です!今日、まさもの頭にパンクしそうになるまで詰めますからね!!」
ひぇええぇぇえ。
そう雷を落とされ、私の1日が終わったのだった。
ああ、もう昨日の出来事は思い出したくもない。
頭がパンパンになるまで、勉強させられちゃった。
私は、自分の机にぐったりとする。
すると、友達のキミコ、しずきが近づいてきた。
さし川 キミコは、明るい性格の女の子。
みおかき しずきは、海色の髪の毛の美少女。
二人とも、私の友達なんだ。
しずきが心配そうに言う。
「どうしたの?まさも。ぐったりして。」
私は力なく応えた。
「そみこに昨日、めっちゃ勉強させられた…………頭が破裂しそう。」
すると、キミコが思い出したように
「ああ、そういえばまさも、この前仲がよかった友達と…………」
と言いかけ、自分の口を塞ぐ。
たちまち、自分の表情が曇ってしまった。
鏡を見なくてもわかる。
あの、嫌な記憶を思い出すと、私はいつもの自分じゃなくなってしまう。
しずきは、表情が変わった私を見て言った。
「どうしたの、まさも?」
もう、話すしかないかもしれない…………
何ヶ月も封印していた記憶を。
私はため息をつき、言った。
「ついてきて。図書室に。」
図書室についた私は本棚に囲まれたところに座り込む。
私は、話し始めた。
「この前仲がよかった子のこと、知ってる?」
キミコは
「知ってる。リイナ、りんの、ミルト、リールでしょ。」
と応える。
その名前が耳に入った瞬間、私の心臓はドクドクと鳴り始めた。
「そう。その4人と今まで遊んでいたんだけど、ある日…………こう言われたんだ。『もう、あんたみたいな子とは遊びたくない。』って。それで、その子と縁を絶ちきったんだ。今までずっと秘密にしていたけど、苦しかったの。自分は嫌われているのかな、なんか嫌な事しちゃったのかなって…………」
その後は、どんどん言葉があふれ出していく。
「それで、悲しくなって机に向かって、みんなにばれないように泣いたの。思い出しただけで胸が張り裂けそうだし、苦しくって。封印したの、その記憶を。でも、それに関わる単語が出てくるとあの記憶を思い出しちゃって。苦しいの。打ち明けたいけど、そんなことしたら元気で明るくてポジティブっていう私のモットーが崩れ去っちゃうから。みんなだけには知られたくなかったの。モットーを壊しちゃうかもしれないから。」
気がついたときには、私は泣いていた。
涙がぽろぽろと落ちて、床に水たまりをつくっていく。
「ずっと、苦しかった。誰にも言えなくて。言い返したいけど、その時あの4人を見たら笑ってたの。それで、怖くなっちゃったんだ。それで、あの4人は何食わぬ顔で遊び始めちゃって。言い返すチャンスもなくて、傷はずっと心に残ってて、こんなことに悩んでいる自分も嫌で。さっさと、こんな気持ちは、捨て去りたい、のにっ…………」
すると、キミコとしずきが抱きしめてくれる。
「「次の放課、みんなで一緒に言い返しに行こう。」」
そして私は、放課中、ずっと息ぴったりのキミコとしずきに抱きしめてもらったのだった。
私は、ゆっくりと4人のところに行く。
もちろん、しずきとキミコも一緒にいる。
震えが止まらなくなり、私はキミコの袖をぎゅっと掴む。
4人はカードゲームで遊んでいた。
あの日と同じ、「サミカル☆マネージャー」というカードゲーム。
私が近づいていくと、ようやく最初にりんのの姉、リイナが気づいた。
「何よ、3人そろって。もしかして、仲間に入れて欲しいってこと?悪いけど、私はこの4人で遊ぶの。あんた達みたいなチャラチャラしたやつとか、ただ勉強が得意なやつとは遊びたくないよ。」
びくり。
私の体がこわばる。
キミコは私を守るように立ち、リイナに言う。
「リイナ。何でまさもを仲間はずれにしたの?」
リイナはキミコの言葉を空気のようにさらりと受け流す。
「なんでかって?こいつ、いつもチャラチャラしてるだけのくせにさ、めっちゃ目立ってるからに決まってるでしょ。遊びに誘って弱点を引き出そうと思ったんだけど、たいした弱点がなかったから仲間はずれにしただけ。」
グサリ、グサリ。
リイナの言葉が私の心に傷をつけていく。
もう、無理かもしれない。
私が縮こまっていると、今度はりんのが言った。
「こいつ、こんなに臆病なんだ。弱点教えてくれてありがと。でも、あんた達、邪魔だからあっちに行ってくれない?遊びに集中できないんだけど。」
すると、今度はしずきがポケットに手を突っ込んでいるりんのを睨む。
「『こいつ』って呼ぶ権利、あなたにあると思う?それに、私の友達にたくさん酷い事を言って。自分でもおかしいと思わないの?まさもは、たくさんいい思い出をつくった友達に裏切られたのよ。あなたはそんなこと起きたら耐えられると思う?相手の気持ちをもう少し考えたらどうなの?」
でも、リイナは髪をかき上げてにやりと笑う。
「たくさんいい思い出をつくったんだからいいでしょ。っていうか、こいつと友達になった覚え、ないんだけど。ただの邪魔者だしね。仮にあんた達が先生を呼んでも、絶対に先生は私達の方を信じるはず。だって私、先生に好かれてるんだから。先生はあなた達がどれだけ訴えても聞かないに決まっている。それ、考えなかったの?」
すると、しずきがギュッと唇をかむ。
すると今度はミルトが見下したように言う。
「もう、関わらないでくれない?あなたたち、うるさいんだよね。特に、このしずきってやつ。」
その言葉を聞いて、キミコが言う。
「しずきの悪口?しずきが悪いことをやったこと、あなたたちは見たことあるの?」
するとリールが笑い始める。
「あはははっ。」
私はびくりと体を震わせる。
他のクラスメイトを見ても、みんな何も反応していない。
すると、私の反応を見てリイナが腰に手を当てる。
「私達は今、いないことになってるの。私の『幻霧』でみんな勘違いしてるから。」
そしてリールが私達の悪口をぶつけ始める。
「しずきっていうやつ、なんか偉そうに『あなたに悪口言われる筋合いないんだすけどぉ~』なんていってさ。偉そうだと思わない?ウザいと思わない?顔は確かにちょっとはかわいいよ。勉強も上手かもね。でも、顔の可愛さはあのキリキリ学級員の方が上だっていうの、忘れてない?それからキミコっていうやつ。さっきからいろいろ首突っ込んでるけどさ。あんた、何にも才能もないただの平凡な女の子でしょ。私よりも下っ端なんだから、命令するような口調で言わないでくれない?」
リールが私の悪口を言おうとすると、しずきが口を挟む。
「あなた、ちょっとおかしいんじゃないの?」
すると、リールが言った。
「おかしくなんかないよ。だって私達、一応クラスの誰よりも身分が高いもん。あなたたちみたいな平凡な女の子みたいな感じじゃなくてね。でも。これ以上私達に口答えするならそみこの秘密、みんなにばらすけど。」
「そ、そみこの秘密って、何のことよ?」
しずきが少しとまどう。
そみこの秘密といえば、モデルだっていうこと。
そみこは目立つのが好きじゃないから、いつもは変装している。
リイナはにやりと笑った。
「とぼけても無駄。放課後、あんた達が喋ってるとこ、聞いたんだ。そみこの秘密がみんなに知られてもいいの?実はもう、スマホでSNSにアップする準備してるんだ。はったりなんかじゃない。そみこの秘密がみんなにばらされたくなかったら、大人しくこっちのいうことを聞いて。」
そみこの秘密を知られてしまったなんて…………
私は、顔を青ざめる。
すると、りんのがスマホの送信ボタンに手を近づける。
許せない。
そんな思いが心の奥底から湧き出てくる。
ブチッ。
私の堪忍袋の緒が切れる。
今まででためていた心の奥底の気持ちが今になってあふれ出ていきそうになる。
1回、すっきりさせた方がいいかもしれない。
本当は言いたくないけど。
私は、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「やめて!!」
リイナはにやりと笑う。
「ふうん。まさもは大人しく言うことを聞くってわけか。」
1回叫んでしまったら、もう言葉を止められない。
私は猛烈に叫んだ。
「そみこの秘密をみんなにばらす?人に知られたくない秘密を、リイナ達はばらそうっていうの?いくら顔がかわいくても。勉強ができても!!心が汚いなら、本物の友達関係ができるわけない。どんだけ、人を裏切って、傷つけるつもり!?私の悪口を言うならまだいい。でも、他の人の悪口を言って、さらに脅すなんて。絶対に、絶対に許せないことなんだから!!私が何ヶ月、苦しんできたかリイナ達はわかってるの?自分がそんなことになったら、苦しいってわからないの?」
私の瞳から、ポロリと一粒の涙が伝う。
「リイナ達のこと、それまで大好きだったのに。大切な、お友達だったのに。なのに、リイナはそれを裏切ったの。裏切られて、人がどういう気持ちになるか、よく考えてみてよ!悲しいのに、自分のモットーを守るために、言うことができない。こういう、苦しい気持ちになった人がたくさんいるの。私だけだったら、まだ許せたかもしれない。でも、今はキミコもしずきも、直接的にじゃないけどそみこも傷つけている。許されることじゃないってことは、わかってるでしょ。みんな、そんな言葉を聞いたら必ず心に傷ができるの。体にダメージが受けるなら、他の人にちゃんと言えるかもしれない。でもね、心を傷つけたら、その人が…………すごい苦しくなる。その、苦しい気持ちがリイナにはわからないってこと?これまで、どんだけ人を傷つけたか、考えてみて。精神的に痛めつけられるっていうことは、ずっと忘れられないってこと。絶対に忘れずに、心に残ってしまう思い出なの。嫌な記憶は、忘れたくても忘れられない。それがわかってないから、こんなことになるんでしょ!!現在、私もしずきも、キミコも傷ついているの。それの責任を、リイナはとれるってこと?」
リイナ達は驚いたように固まる。
私自身も、びっくりした。
いつも、ハイテンションで明るい私がこんな声を出して、猛烈に叫ぶなんて。
すると、リイナは無理矢理笑う。
「それって、勝手にあんた達が傷ついただけじゃん。」
すると、しずきが本気で怒る。
「こんだけまさもが精一杯言ってくれたのに。勇気を出してくれたのに。勝手に私達が傷ついたって言うつもり?おかしいと思わないの、自分が。さっきも言ったけど、相手の気持ちを考えたら?あなたは、さっき私達が言った言葉とまさもを裏切ったときの言葉。行動を我慢することができるの?」
でも、まだ4人は不適な笑みを浮かべたままだ。
「それなら、そみこの秘密、アップしてもいいの?」
りんのが送信ボタンを押そうとする。
「やめてっ!!!!」
私は、言葉と同時に動き、りんのを押し倒した。
そして、スマホを奪う。
すると、すぐに3人がスマホを取り返そうとする。
キミコも、スマホを奪おうとして教室の中を暴れ回る。
そして、リイナがスマホを奪い、教室から逃げ出す。
すぐさま、私はリイナの前に降り立つ。
リイナは教室に向かってスマホを投げる。
前にいるのは、りんのだけ。
キミコ達はもう一つのドアに向かっている。
もう、私が頑張るしかない。
私は、ドアを蹴り、スマホをキャッチしようとした。
でも、キャッチすることができずにりんのにスマホが奪われてしまった。
すると、しずきが後ろ手でデコピンパチンコを出す。
リイナはタンッと地面を蹴り、しずきのところまで来る。
そして、しずきに魔法の杖を向ける。
しずきはリイナがやろうとする技を予想し、青ざめる。
「霧鉄砲だわ。これに当たったら、毒が回って、死んでしまう。」
そんな!!
リイナはしずきに杖を向けたまま私達の方を見る。
「少しでも動いたら、しずきを撃つから。そみこの秘密を送信するのには時間が必要だから。」
そして、送信ボタンを押す。
ピッ。
どうしよう、世界中に広がってしまうかもしれない!!
時計をみると、もう授業の時間だった。
なんとかさきとリンティを呼ばなくちゃ。
私が動こうとすると、ミルトとリールがガムテープを取り出す。
「な、何をする気?」
私が聞くと、ミルトとリールは
「しばらく大人しくしてもらうわ。あなたたちが変な行動したら承知しないから。縛っておくことにしたの。」
と言った。
そして、ガムテープを自分の杖に乗せ、私達に向ける。
その瞬間、くるくるっとガムテープが私に巻き付く。
私が縄抜けすることができるのはロープだけ。
ガムテープがあると、身動きできない。
私は、バランスが取れなくて床に倒れ込んでしまう。
しかも、ガムテープで目が見えない。
ミルトは私達をトイレに押し込める。
しかも、一番見にくい奥の部屋だ。
どうしよう…………
手も使えない。
すると、リールの声が聞こえてくる。
「私、ここで見張っておくわ。」
すると、見慣れた声が聞こえてきた。
「トイレに行ってもいい?」
さきの声だ!!
さきの本名は、さきみや 皐月。
コンピュータや機械のことについて詳しい子なんだ。
でも、さきが来てくれてもそみこの秘密に気づいている子はいるはず。」
学校はスマホの持ち込みオッケーだからそみこの秘密がみんなに知れ渡ってしまう。
すると、リールが1番手前のトイレを指さす。
「ここなら大丈夫。今、トイレを渇かしてる途中だけど。そこなら大丈夫だから。」
うっ…………
救出作戦、これじゃ無理かもしれない。
さきが気づいていなかったら、それこそ無理だ。
するとキミコが私に体を当てる。
え?
キミコは少し頭を下げると、壁に向かって行く。
そして、ダンダンダン、と3回体を当てた後、後ろ手で壁を3回ひっかく。
キーキーキーと耳障りな音が聞こえてくる。
そしてまたキミコは体を3回ぶつけた。
何をするの?
私は不思議に思ったけれど、キミコのことだから何か作戦を思いついたに違いない。
そしてまたキミコは壁をどんどん叩いたり、爪でひっかいたりし始める。
ドンドン、キー、ドンドン。
ドン、キィー。
キーキーキー。
ドンドン、キーキー。
ドンドン、キー。
キー、ドン、キーキーキー。
ドン、キーキーキー。
ドン、キーキー、ドン。
キー、ドン。
そこまで鳴らし終わった後、少し待ってから最後の音を鳴らす。
ドンドン、キー、ドンドン。
すると、リールの怒鳴り声が聞こえた。
「うるさい!!キーキー、ドンドン、大事な人質なんだから、おとなしくしてなさいよ。」
この声がさきに聞こえたら、さきは助けてくれるはず。
すると、ガサゴソと音がする。
もしかしたら、さきが助けに来てくれたのかもしれない。
すると、目の前が明るくなる。
目の前には、栗色とサーモンピンクが混じった髪の女の子が立っていた。
さきだ!!
私は、叫ぼうとする。
さきはそれに気がつくと首を振る。
そうだ、今は声を上げたらダメなんだったっけ。
さきは、パソコンを取り出し、身振り手振りで教えてくれる。
唇に人差し指を押し当て、めがねを掛けるまねをする。
そみこの秘密ってことかな?
さきは、さらにパソコンを打つまねをした。
そみこの秘密を載せたSNSをハッキングするってことかな?
私はさきにガムテープを全てとってもらい、SNSのハッキングをしていく。
そしてやっと、そみこの秘密を隠すことができた。
そしてさきがトイレの壁を上って部屋を移動していく。
私達も一番手前のトイレに行き、洗面所のところに行く。
リールは、入り口のところにいる。
これだと、逃げることができない。
すると、キミコが光の銃を取り出す。
さきも、光の檻を取り出す。
もう、この二人が考えていることがわかる。
私は、下りる準備をする。
そして、みんなでいっせいに着地する。
キミコのツインテールがふわりと浮き、着地した途端に垂れ下がる。
今だ!!
私は、一番最初にリールの方へ行く。
リールはその途端、無表情になってボールを取り出した。
な、何あれ!?
リールは冷たい表情のまま、そのボールの説明をする。
「これは見かけによらず、強力な爆弾なの。このトイレは、残らず吹っ飛ぶわね。この学年のフロアもきっと全部なくなるわ。この下の階はどうかしら。真下のところとかは被害を受けるんじゃない?」
爆弾…………
すると、キミコの表情が変わる。
「そこまで悪人だったとは知らなかった。まさもの友達が、そんなことするなんて信じられない。悪いけど、その爆弾は解除させてもらうから。」
リールは相変わらず不敵な表情でボールを落とそうとしている。
今、ようやく私達はリールの怖さを知った。
鮮やかな瑠璃色の髪の毛、はっとするようなきれいな瞳と顔。
センスのいい服装の裏に、こんな冷たい面があったなんて。
すると、リイナ達がやってくる。
「リール、よくやったわね。さあ、まさも達。観念した?私達がすぐにこの学校を破壊できるっていうことを知ったでしょ?」
リイナは、相変わらず金髪がキラキラと光っている。
その瞬間、キミコが言葉をぶつける。
「この学校を破壊する?自分が今、何をしようとしてるか、わかってるの?友達も、自分も、大好きな学校も…………何一つ残らず、破壊しちゃうんだよ!?自分でも頭がおかしいって思わないの?私達が紺だけ必死になって学校を守ろうとしているのに。こんなに、けがしないよう手加減してあげてるのに。そんだけ暴れ回って、どうする気!?もう、許せない。まさもを裏切って、しかも悪口を言いたい放題、ぶつけて。そこまではまだ、許されるかもしれない。先生に怒られるだけで済むかもしれない。でも、これだけは絶対に許されない。クラスメイトを勝手にトイレに監禁したり、この学校を、破壊するなんて。頭が壊れてるんじゃないの!?」
でも、リールがにやりと笑う。
「それじゃあ、ぶつけていいの?このボールを。」
すると、キミコが動いた。
「ぶつけていいわけがない。今まで手加減していたけど、今度はちょっとだけ本気を出す!!」
そして、光の銃を全員に撃った。
リイナ達は床に倒れ込む。
そして、さきが光の檻をかぶせた。
「今のはお返し。悪いと思わないでね。」
やっぱさきは優しい。
まだ、リールの手には爆弾が握られている。
私はその爆弾を手に取る。
さきは厳しい目で言った。
「爆弾解除は私がやる。キミコは、教室に戻って。」
私達はさきを置いて教室に戻った。
そして、キミコと一緒に杖を向ける。
すると、この空間が解除された。
そして私達は先生のところへ向かったのだった。
第3章:新たな関係
私は先生に言った。
「今日、リイナ、リール、りんの、ミルトが爆弾を爆発させようとさせてたんです。」
でも、先生は真面目な顔をしている。
「冗談はよせ。早く授業を始めるぞ。」
すると、横からしずきが言った。
「ちがいます。本当なんです。あの4人は、元々まさもの友達だったんですけど、まさもを裏切って、泣かせちゃったんです。でもまさもは自分の『いつもポジティブでハッピー』というモットーを守るためにずっと苦しみを抱え込んでいたんです。」
先生は、しずきを見て驚いている。
きっと、しずきがそんなことを言うとは思ってもいなかったんだ。
しずきは、今まで全然うそついたことがなかったから。
先生は、困惑しながら言い返す。
「し、しずき。冗談を言っている場合か。」
全く、信じてくれない。
すると、そみこがこちらに来て叫んだ。
「まさもは、うそなんかついていません!!しずきが言っていることも本当です!」
先生は、さすがにアワアワしちゃってる。
しずきははっきりと言う。
「本当の話なんです。聞いてください。」
先生は、気圧されながらも私をにらむ。
「ば、爆弾を、爆発させようとした?冗談にも、ほ、ほどがある!!どうせ、魔法でも使ってしずきやそみこを操ったんだろう。」
すると、しずきが先生をにらみ返す。
「この話が本当だったとしたら、先生は…………責任を取れるんですか?」
すると先生はようやく自信を取り戻し、微笑を浮かべる。
「ふん。そんな話を信じろと?本当なわけがない。」
それを聞いて、しずきの海色の瞳から大きな涙の粒がこぼれ落ちる。
「先生は…………まさもの話を信じてくれないんですか!?まさもがこんなに苦しんでるのに。なのに、先生は様子がおかしかったまさもに気がつかなかったんです!!あの時はさいとはいなくて、あなたが代わりに放課の時間にいました。なのに…………何にも、異変を感じなかったんですよ!!生徒に気を配っていれば…………まさもの様子にも気がつけたはずなのに。いつも一緒に遊んでいる子の表情を見なかったんですか!?まさもがあんなに苦しんで、悲しんでるのに…………」
しずきは、思いっきり叫ぶ。
「先生は、まさもの気持ちに見向きもしないんですか!?しかも、こんなに必死になって信じてもらおうとしてるのに、話さえ聞いてくれないなんてっ…………まさもの気持ちにも、なってみてください!!」
先生は、さすがにびっくりしたみたい。
「ちょっ…………泣くなんて、あの話がまさか本当なのか!?」
すると、泣いてしまったしずきの代わりにキミコが応える。
「本当に決まっているでしょ!!どんだけ、私達があの4人に悪口言われたり、襲われたりしたと思ってんの!?学校を爆破しようとしたのを止めたのは、誰?必死になって守っていたのに、話を信じてくれないなんて、不公平だと思わないの?」
先生は、キミコの言葉遣いに(なぜか)怒る。
「キミコ!!言葉遣いをただしなさい。」
すると、まさかのそみこがキッと先生をにらむ。
「今、そんなことで怒っている場合ですか?こんな非常事態には、言葉遣いなんてどうでもいいです!!」
そみこ…………
まさか、そみこがそんなことを言うなんて。
いつも、礼儀とかに厳しいそみこがそんなことを言うなんて。
すると、先生が私達を少しにらみながらもやっと待ち望んでいた言葉を言ってくれた。
「しょうがない。話だけは聞いてあげよう。」
私は、ギュッとキミコの服を掴む。
体の芯が、さっきの戦いでぶち壊されたみたいにまっすぐ立てない。
精神的に、心と体がダメージを受けたみたい。
今にも、床に崩れ落ちてしまいそうで怖くなる。
すると、先生が私に注意してくる。
「まさも。わざわざ人が話を聞いてやるって言っているのに、人の服を掴むなんて、おかしいと思わないのか?」
たちまち、私の手と体に力が入らなくなる。
私は床に倒れ込みそうになるのを必死にこらえ、なんとか自力で立上がる。
すると、キミコが先生に向かって言った。
「精神的にすごくダメージを受けて、まさもは疲れてるの。でも、必死で立上がってる。そんなまさもに、先生はそんなこと、言える?」
私は、必死に声を絞り出す。
「いいの、キミコ…………話を続けて。」
でも、喉から出てきたのは疲れたような…………少し恐怖を感じさせるような声だった。
普通だったら、こんな声は出さないのに。
私は、自分のことが怖くなる。
私、いったいどうしちゃったの…………
すると、しずきが話し始める。
「この騒動が起きたのは、数ヶ月前で…………いつも通り、まさもはリイナ立ちの方に遊びに行ったんです。だけど、いきなり『もう遊びたくない』なんて言われて、裏切られて。それで、まさもは苦しい思いをずっとしてたんです。数ヶ月も。キミコも、その時気づいていたんですけど…………びっくりしていて、何にもできなかったみたいで。結局、まさもは一人でこの苦しい、悲しい記憶をため込む羽目になってしまったんです。まさもは、自分の『いつもポジティブで明るい子』っていう感じのモットーを守るために泣いたり、悲しんだりすることができなかったみたいで。それで、今日まさもが言ってくれたんです。この事を。しれで、私達はリイナ達に言い返しに言ったんです。でも、返ってリイナ達はまさもや私達に向かって悪口をぶつけ始めて。それで、どんどんエスカレートしていって、ついにそみこの秘密をばらそうとしたんです。どうやら、私達が帰るときにそみこの秘密を盗み聞きしたみたいで。それで、一歩でも動いたらそみこの秘密をばらすって脅されて…………その後、どんどんヒートアップしていって私の体に杖を向け、『霧鉄砲を発射されたくなかったら、絶対に何もするな』って脅されたんです。その後、キミコとまさもはトイレに監禁されて。偶然、キミコが送ったらしいモールス信号をさきがキャッチして救出してくれたんですけど、今度はついに爆弾を取り出して『学校を破壊する』って言い始めて。ボールをぶつけようとしたんです。爆弾はなんとか爆発するのを免れて、今さきが解除しています。それからリイナは、トイレに光の檻で閉じ込めてあります。どうしたらよいでしょうか?」
先生は厳しい顔になり、
「リイナには退学してもらうしかないそうだな。」
とつぶやいた。
えっ…………
私達は驚いて固まる。
先生は私達を見て
「さすがに、学校を爆発させようとしたなら退学になるかもしれない。」
と言った。
リイナ達が、退学になっちゃうなんて…………
頭の中に、友達だった頃の思い出が渦巻き始める。
あの、温かい笑顔。
あんな笑顔を向けてくれたのに、それが偽りの表情だったなんて。
私はしずきに目で気持ちを伝える。
どうやらしずきはうまく私の気持ちをキャッチしてくれたみたい。
「先生。私達は、リイナ達の退学とかを望んでいません。たしかに、いろいろなことをしたけど私達は、リイナ達に退学して欲しくありません。それだけ、大切なクラスメイト達が消えちゃうっていうことですから。たとえ、友達じゃなくなっちゃったとしても、絆はあるんです。クラスメイトとしての絆が。だから、このことは秘密にしておいてください。」
すると、先生が冷たい目でしずきも見る。
「それは無理だな。なにしろ、後もう少しで学校が爆破されるところだったんだから。」
しずきは先生に言い返す。
「私は、さっきリイナ達が怒られて欲しいっていう思いできたんじゃありません。『どうしたらいいのか』と聞いただけです。」
しずきの言葉に、先生は諦めたみたい。
「わかった。」
やった!!
すると、リイナが現れる。
リイナは、ほっぺたを赤くしながら言った。
「ありがと。だから、お礼に…………赤い玉をあげる。あと、あんたと遊んでいる時も…………ちょっと楽しかった。」
私は、玉を受け取る。
赤い玉は、私の心みたいだった。
じんわりしていて、思いやりに満ちあふれている。
情熱が底にはいっぱい詰まっていて。
私の物っていう感じがした。
すると、赤い玉がガコという音と共に消え去った。
もしかしたら、あのほこらの玉はリイナが持っていたのかもしれない。
そして、リイナのさっきの言葉。
あの言葉で…………体がシャキッとした。
自分は、生きている意味があるんだって。
自分は、大丈夫なんだって。
泣いたりしてもいい。
人間だって、悲しいって言う気持ちや苦しい気持ちはある。
その気持ちを、受け止めよう。
私は、きっと大丈夫だから。
どんなに辛いことだって、私なら乗り越えられる。