どんよりと曇った天気の日。
私、牧原 美鈴はため息をつく。
まるで、空の天気が私の心を写し取っているみたいだ。
私には、凉平君っていう、大好きな人がいるんだけど、なかなか声をかけられなくて…………
本人は私が自分のことを好きだっていうことをに気づいていないみたい。
まあ、私の今の格好じゃ、あんまり気づいてもらえないと思う。
勉強はまあまあ得意だけど、他には目立つところがない。
服とかも、すごく地味で、「1人でいるのがすき」という雰囲気を周りにもたらしている。
だって、今日は紺色のワンピースに、黒くて長い髪の毛を暗い色のリボンで結んでいるだけだ。
なぜ、こんな服装をしているのかというと、じつは、小学校に入る時に、お母さんが地味な服を着せちゃったことが原因だったの。
私は幼稚園の頃、華やかな服ばっかり来ていて、結構、人気者だったんだけど、入学式の時、「もう、あなたも小学校よ。しっかりしているような見た目にしなくちゃ。」と言われて、華やかな服は誰かにあげたりして、地味な服ばかり着るようになっちゃったの。
本当は、華やかな服を着たいのに…………
そんなことを思い出していると、家に帰る途中、ぱあっとある通ったことがない道から、光が差し込んでいるのに気がついた。
でも、寄り道しちゃダメだって、お母さんから言われている。
でも、少しならいいよね。
と、言い訳してそこの道に入った。
そこには、息をのむような絶景があった。
咲き乱れる美しい、ピンク色の桜が。
まるで、桜のトンネルみたい!
奥からは、優しい、桜と同じ色の光が放たれている。
その光は、思わず、心をほっとさせるような、安心できる色だった。
その光に向かって、私は進んでいく。
すると、目の前にお店が現れた。
私は思わず一歩後ずさりする。
私が驚いていると、中から誰かが出てきた。
だいたい、私と同じ年齢くらいかな。
10歳くらいだ。
その子は、私に話しかけてきた。
「あなたは、美鈴ちゃんだったっけ?私は、リリアよ。宝石屋をやっているの。ここにいる間は、ルミアが時をゆっくりさせる魔法を使って、30分くらいいても、実際の世界の時計だと5分くらいしか経ってないから大丈夫よ。さあ、お店の中に入って。ちょうど、雨も降り出しそうだから、ここで雨宿りしていくといいわ。」
私は、ゆっくりと店の中に入ってみた。
中には、たくさんの宝石が並んでいる。
私は小さくつぶやく。
「アクアマリン、蛍石、あっちにはエメラルドやトルマリン、トパーズもある。」
リリアは
「あら、よくわかったわね。じゃあ、もう1つ奥の部屋にお茶をするところがあるから、入ってちょうだい。そうだ、ルミア!今日のケーキを準備して!ついでにお茶もおねがい。雨宿りをして、ついでに宝石も買ってくれるみたいだから、おもてなしして!いつもは、あんまり長くはいないけど、今回はけっこう長い時間ここに居てくれるみたいだから、よろしくね。」
と言った。
ルミア?
私は首をかしげた。
もう1人、いるのかな?
しばらくすると、海色(水色)の髪の毛をふわふわとさせ、それをポニーテールに結んでいる子は、紅茶を持ってきて、
「今日は、アールグレイティーよ。じゃあ、ケーキはちょっと待ってね。」
と言ってまた奥に戻った。
そして、リリアが紅茶を一口すすると、
「あなた、何かを望んでここに来たのよね?何が望み?」
と言った。
私は、
「うーん、多分、私、凉平君っていう子が好きなんだと思う。」
と、誰にも言わずに、心の中にとっておいた、大切な秘密をリリアに打ち明けてみる。
リリアは
「なるほど。その人と結ばれたいってわけね?」
と確認して手帳を開いた。
そして、宝石のイラストを見ていく。
リリアは、あるページを開き、宝石を見せた。
「この、ローズクォーツとかは、どうかしら?」
私は、リリアとけんかにならないように言葉を選んで話しかける。
「ちょっと欲張りかもしれませんけど、勇気が欲しいんです。」
リリアは、
「…………勇気?」
とつぶやく。
私は、うなずく。
リリアは、少し考え込んでしまった。
そして、もともと無口な私は、リリアにどう話しかけたらいいのかわからず、おどおどしてしまう。
すると、ちょうどいいタイミングに、ルミアがロールケーキを運んできた。
ルミアは、リリアに
「もう、ダメじゃないですか。私が会話を聞いて、ロールケーキを出していなかったら、危うく沈黙状態になるところでしたよ。」
と注意する。
リリアは、腕組みをして
「あのさ、会話を聞いていたって、盗み聞きだったんじゃないの?そんなことしてもいいわけ?」
と言った。
ルミアは言い返す。
「いいから、そっちは宝石屋の仕事ちゃんとやってくださいよ。最近、全然ここにお客さんが来ていないんだから。貴重なお客さんを、オロオロさせちゃったりしてどうするんですか!」
窓の方をみると、気が遠くなるような雨が降っていた。
ルミアはケーキを机に置くと、天気予報を調べる。
そして、
「30分くらい雨は降り続けるみたいですよ。まあ、ここで30分っていうことなので、実際だとちょっとした夕立みたいなものですね。しばらく、雨宿りしたらどうですか?」
と提案した。私はうなずき、お母さんに電話をかけて言った。
「突然の大雨が降ってきたから、友達の家に雨宿りさせてもらうことにしたんだ。だから、ちょっと遅れるけど、ごめんね。」
これはうそっぽいけど、リリアとはお友達になったんだから。
ギリギリ、うそじゃないよね。
お母さんは
「はい。くれぐれも、失礼なことをしないでね。」
と言って、電話を切った。
私はリリアに今までの服のことを話した。
リリアは、
「なるほど。でも、それに反対する事ができないのね?」
と痛いところを突く。
うっ、そ、そうです。
ちょっとお母さんは怒ると怖くて…………
リリアは、
「あなた、こういうのもいいかしら?『大切な人との絆を深める。』それから、『心を豊かにする。』」
と問いかけた。私は、言葉の意味がわからなくて首をかしげる。
リリアは、優しく説明してくれた。
「凉平君とは、大切な人なんでしょう?だから、この宝石を持っていれば、絆が深められるわ。あと、心を豊かにすると、苦しい思いはせずに、少し、楽になれるの。そして、うまく使えば作家や画家などの、なることが難しい職業にも慣れたりするわ。」
うん、それが最高!
でも、これだと、2個宝石を買うことになっちゃうんだよね。
それはちょっと申し訳ないような気がする。
私は
「でも、2個も宝石を頂いちゃうって…………」
としどろもどろ。リリアは、
「大丈夫よ、それをちゃんとまとめた宝石があるから。あなた、誕生日は何月?」
と聞いてきた。
私は
「え、えっと、1月、ですけど…………」
と応える。
リリアは
「やっぱり、この宝石がぴったりね。でも、その前に少しお話をしましょう。せっかく、ここへの道が開かれたんだから。そのお母さんへの言い訳もできたんでしょう?そうだ、あなたには友達って何人くらいいる?」
と、また質問してきた。
私は
「えっと、親友は3人くらいだけど、友達は全部合わせて4人くらいかな。」と応える。
リリアは安心したように、
「ああ、よかった。友達が1人とかだと、あなたのお母さんがその子のお家の人に『ありがとうございました』っていう電話とかをつないじゃうかもしれないでしょ。そしたら、友達の人、ここには来ていないって言われて、お母さんが不審に思っちゃうかもしれないわ。だから、ちょっと聞いてみたの。」
と言って、ケーキを食べる。
そして、
「ああっ!これは、私の大好きなキャラメルフルーツロールケーキだ!」
とちょっと意味不明な名前を叫ぶ。
ルミアは
「当たりです。このお菓子は、中にたっぷり、フルーツが詰められています。オレンジ、キウイ、イチゴなどですね。このフルーツは全部、無農薬で、ここの近くの畑で育てていて、さっきとれたばかりなので、新鮮なはずです。あと、生地はできるだけふわっと柔らかくさせ、キャラメルチョコチップをとろりと溶かした物を生地に入れています。ぜひ、食べてみてください。」
うわあ…………
ルミアって、お菓子作りも得意だし、説明も得意!
リリアってば、よくこんなキレイなのをパクパク食べれるなあ。
まあ、ルミアにはほとんどいつでも作ってもらえるから、遠慮なく食べれるんだろうけど。
私も、一口食べさせてもらう。
本当だ、生地がふわふわしてる。
そして、生地をかむと、中からイチゴ、オレンジ、キウイの味がする!
私は珍しくたくさん食べて、紅茶もおかわりしてしまった。
ルミアは、
「気に入ってくれて何よりです。」
とまた奥に戻っていった。
そして、私とリリアは本題に戻る。
リリアは、棚からガーネットを取り出した。
くっきりとした、見ているだけで勇気をもらえそうな、まるで私のために作られた物のようだった。
私の目がきらめいているのをみて、リリアは手を差し出した。
「このガーネットを自分のそばに置いとけば、効果が出てくると思うわ。だから、あなたが持っている宝石の材料などを、出してくれないかしら?」
私は、リリアに言った。
「でも、リリア。そんなの、どこにあるの?」
リリアは落ち着いて応えた。
「あるわよ。だって、そこから宝石の材料の気配が感じられるもの。ちょっと、探してみてくれる?私がそれだ!って思ったやつを、出してもらうから。」
私は、ランドセルの中の物を床に置いていった。
そして、ある物を出したところで、リリアが
「ストップ!」
と叫んで、私がこっそり持ってきているキレイなクローバーの押し花を指さした。
こ、これ?
私は、そのクローバーを取ってリリアに渡した。
リリアは、涙ぐんで言った。
「良かった。これ、すごく貴重な四つ葉のクローバーなの。滅多にいけない、あのトラミノ森林でしかとれないのよ。トラミノ森林は、危険がいっぱいよ。なのに、四つ葉のクローバーを見つけるなんて。美鈴は、これをどこで見つけたの?」
私は、
「これは、どこかの川で見つけて、すごくキレイだったから押し花にしたの。」
と応えた。
リリアは
「貴重な四つ葉のクローバーをありがとう。そろそろ帰らないと、お母さんが心配するわよ。また会えるといいわね、あと、お母さんは、あなたの服のこと、すごく考えて、やっと決めたらしいわよ。美鈴には、ある才能がある。それを開くために、きっとお母さんはあなたに暗い色の服を着せたのよ。そのガーネット、大事に使ってね。あと、説明書も読んでちょうだい。宝石の注意が書いてあるから。じゃあ、バイバイ、美鈴!」
と手を振ると、さっきまでのことがうそのように、私はいつもの通学路に立っていた。
一瞬、幻でも見たんじゃないかと思ったけれど、手にはちゃんとガーネットがあった。
きれいな、勇気をくれるような真っ赤なガーネットが。
私はそれをランドセルのポケットに入れると、軽い足取りで家に向かった。
空を見ると、さっきのどんよりとした黒い雲は、跡形もなく、消え去っていた。
まるで、私の心のように。
家にはお母さんがいなかった。
今日は、用事があると言っていたから、まだその用事が終わっていないんだろう。
家に着くと、私は自分の部屋に行き、ランドセルを置いてポケットからガーネットを取り出した。
よく見ると、ガーネットの所に、細い透明な紐があって、その先には札が付いていた。
私は底に書かれた文章を読んでみる。
「このガーネットをお買い上げになったお客様へ このガーネットは『心を豊かにする』、『大切な人との絆を深める』などの効果があります。自分のみの周りに置いておくと、効果が発揮されるでしょう。」そこで、文章は全部埋まっていた。
そして、札を裏返してみるとそこにも文章があった。
「注意 このガーネットは、マイナスなエネルギーに直接当たると、壊れてしまいます。くれぐれも、何かに包んでマイナスなエネルギーがガーネットに直接当たらないように注意して下さい。」
この説明書を美鈴が読んでいなかったら、いつか大変なことになっていただろう。
裁縫が得意な美鈴は、さっそく裁縫道具を持ってきて、お守り袋を作り、「幸運のお守り」という刺繍をして、ガーネットをその中に入れた。
そして、お気に入りの紐で結ぶと、ランドセルの内側の方に入れた。
すると、お母さんが帰ってきて、慌てた様子で二階に駆け上がった。
ビックリしてへたり込みそうになった私の体を、お母さんがぶんぶんと揺らした。
私は思いっきり振り回されて、だんだん目が回ってくる。
「お、お母さん、ど、どうした、の?」
お母さんは、
「信じられないことが起きたのよ!」
と興奮しながら叫ぶ。
そして、
「あなたの力が開花できるように、願っていた結果、宝石屋にたどり着いたの!」
えええっ!?
私は混乱して、お母さんに一気に質問する。
「宝石屋?お母さん、そこに行ったの!?どんな石を買ったの!?その子ってどんな名前だった?ねえ、私の力が開花されるってどういう意味!?」
お母さんは、ゆっくりと話し始める。
「私はね、今日、あなたの本当の力が開花されるように、研究を進めていたの。あなたの力は、みんなの気分を良くし、世界に平和をもたらせるという人間の子だったの。でもね、その力は、9歳までに開くと、コントロールできなくなってしまうというとても強い力だった。だから、私はその力を封印したの。でも、その封印の解き方を忘れてしまって、あなたの力はいまだに開けないままなのよ。それで、あなたに暗い服を着せたの。暗い服は、限界まで封印して、それから、爆発するように才能が開くという噂があるの。それでも、あなたの悲しくて、暗い心は、もう才能を開かなくなってしまった。そして、私は宝石屋に行き着いたの。でね、私はそこでクリソプレーズを買ったのよ。それはね、勇気がわいて、隠れた才能を引き出すっていう、すごい効果を発揮してくれるの!」
私は、あることが気になり、お母さんにいった。
「お母さん、その石、貸して!」
お母さんは、石を私に差し出す。
私はそれを受け取る。
糸が着いてるか確認したけれど、糸は着いていなかった。
私は、お母さんに尋ねる。
「ここに糸が着いてあったでしょ?その糸はどこにいったの?」
お母さんは、
「え?それ、別に関係ないと思ったからはさみで切ってゴミ箱に入れちゃったけど。」
と首をかしげる。
あの注意書きを読まないと、大変なことが起こっちゃうかもしれない!
私は大急ぎでゴミ箱へ向かい、中身をあさり始めた。
お母さんは
「ちょっと、美鈴、何をやっているの?ゴミ箱をあさるなんて、頭がおかしくなっちゃった?」
と顔をしかめる。
私は、慌てているお母さんを無視して、必死に説明書を探す。
見つけた!
私はゴミ箱から糸を取り出す。
そして、札を読んでみる。
「このクリソプレーズをお買い上げになったお客様へ このクリソプレーズは、勇気がわき、隠れた才能を引き出す力が備わっています。あなたが大切に置いておけば、きっと効果を発揮してくれるでしょう。注意 クリソプレーズは、栗を食べて1時間以内に触ると、今までに貯めてきたクリソプレーズへの思いが、呪いになって返されてします。」
お母さんは、その内容にビックリする。
そして、クリソプレーズを私にあげてくれた。
私は、なぜか、体がむずむずしてきた。
すると、私の周りが一瞬黄金色になる。なんか、急にお話を描きたくなってきた。
これは、ガーネットやクリソプレーズの影響なのだろうか。
私はパソコンを用意すると、猛烈にキーボードを叩き始める。
その美鈴の様子をずっと見ていたリリアとルミアは安心したように店へ戻り、椅子に座った。
リリアは、
「ああ、まさか、さっきクリソプレーズを買っていったお客さんが、美鈴のママなんてね。ビックリしたわ。しかも、あの美鈴って子、本でみんなを幸せな気持ちにすることができる才能の持ち主だったとは。美鈴がお店に来てもらって、うすうす特別な力があるっていうのを感じたけど、そこまではわからなかったわ。美鈴は将来、きっと幸せに生きてくれるわね。あの注意書き、ちゃんと読んでくれるか心配だったけど、美鈴はちゃんと読んでくれたみたいね。良かったわ。あの凉平って子、ここのお店で会えるかしら?どんな子か、ワクワクするわ。きっと、元気でみんなをプラスの方向に進めていく子ね。ほんと、宝石は面白いわ。さて、そろそろ、仕事を始めるわよ。」
と言って、立ち上がった。そして、ルミアもニコニコ顔で奥の部屋へと駆け込んで行った。
美鈴の片思いの人、凉平には、また別の悩みがあった。
最近、よく眠れないのだ。
眠れたとしても、すぐに起きてしまう。
いい夢も見ずに、睡眠不足になった凉平はかぜをひいてしまった。
今日は、平日だけれど、熱をとうとう出してしまった凉平は学校を休んだ。
「ああ、なんとかして眠れないかなあ。」
そうつぶやいたとき、ピンポーンとインターホンが鳴った。
僕は、階段を降りていってドアを開けた。
そこにいたのは、美鈴だった。
「えっ!?」
僕は、思わず叫んでしまった。
美鈴は、
「ごめんなさい。ちょっと心配になっちゃったんです。大丈夫ですか?」
と聞いてきた。
僕は、
「うん。いいよ。 僕の事は気にしないで。」
と笑顔を浮かべて応える。
美鈴は、僕の顔をジッとのぞき込んできている。
うっ。
この子、実はなんかちょっとかわいいなって思っている子なんだよな…………
そんなにジッと見つめられると恥ずかしい…………
美鈴は、ゆっくりと口を開く。
「凉平君、眠れてないんですか?」
「なんで、僕が睡眠不足だってわかったの?」
僕はびっくりしつつ、美鈴に聞く。
美鈴は、
「私、みんなの気持ちが感じ取れるようになったんです。その人が言いたい気持ちとか。苦しいなって思っている気持ちとかが。訳を話せば長いんですけど。」
と言った。
僕は、美鈴と玄関で立ち話をしていたことにようやく気づき、慌てて言った。
「そ、その事は、僕の部屋に行ってからにしない?キレイではないけど、座れる椅子とかはあるから。」
美鈴は、ゆっくりとうなずくと、
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
と言った。
そして、僕の部屋へ行くと、ハンモックに座った。
僕は、ベットの所へ腰掛ける。
美鈴は、ためらいがちに言った。
「話せば長くなるんですけど、ごく普通の私に不思議な事が起こったんです。」
僕は興味津々で、
「美鈴が秘密を話してくれたら、僕の睡眠不足のことも話していい?」
と聞いた。美鈴は、
「うん。お願い。」
と初めて、敬語じゃない言葉で話した。
美鈴は、ぽつりぽつりと話し始める。
「さっきも言ったけれど、私、ある日、不思議な事が起きたの。それで、お母さんのことを考えてたら、何か、不思議な、キレイな道があったの。桜のトンネルがあって、奥からは光が差し込んでいて。それで、そこの道を行ってみたら、目の前に、宝石屋っていう店が現れたの。何もない空間に、突然。それで、リリアちゃんっていう子が、宝石を売ってくれたの。実は、お母さんとうまくいってなかったの。その事をリリアに話したら、ガーネットをくれたの。そして帰った後、説明書を読んだ後、ガーネットをお守りにしたわ。その後帰ってきたお母さんも、宝石屋に行ってある物を買ってきてくれたの。それが、クリソプレーズっていう宝石。それを私にくれたの。そのクリソプレーズは、勇気がわき、隠れた才能を引き出すっていう事ができる宝石なの。それで、私の隠れた才能を引き出してくれたのよ。」
僕は、もしかしてと思い、美鈴に尋ねた。
「その才能って、もしかして本を通じて、他の人を幸せにし、さらに、気持ちがわかるっていう才能?」
美鈴は、うなずき、
「その事、なんで知ってたの?」
と不思議そうに首をかしげる。
僕は、
「うん、玄関で、美鈴が言ったよね。他の人を幸せにするって。」
と言った。
美鈴は、
「正解よ。」
と少し驚いた顔で言う。
そして、立ち上がると
「お邪魔させてもらってごめんね。あと、もし暇だったら、私が書いた本を読んでくれる?そこに、私の気持ちがあるから。あと、季節外れだけど…………」と行って、紙の束と小さな箱を渡して、帰って行く。
僕は、よく眠れなかったのも忘れ、宝石屋を探しに外へ出た。
一応、普通の服装には着替えた。
そして、桜のトンネルを探しまわり、やっと1つの道を見つけた。
その道は、きれいなピンク色の桜のトンネルがどこまでも続いていた。
そして、奥から差し込む光は、ピンクと薄紫が混じったようなグラデーションだった。
しばらく進んでいくと、上から店が振ってきた。
僕は反射的によける。
そして、店の名前を見てみると、宝石屋と書いてあった。
僕は、そこまで歩いて行った。
すると、1人の女の子がやって来た。
その子は、
「あら、これが、美鈴ちゃんの話に出てきた凉平君ね。一度、会いたいと思っていたわ。どんな悩みがあるの?」
と聞いてくる。
僕は、勇気を出してリリアに話しかける。
「ねえ、もしかして、リリアちゃん?」
リリアは、
「あら。どうしてわかったの?もしかして、美鈴から教えてもらった?」
と少し驚く。
僕は、
「うん。それで、ちょっと相談してもいい?」
と聞く。
リリアは、
「もちろん!どんな悩みでも、自慢の宝石達で解決するわ!」
といってくれた。
僕は、眠れないと言うことと、実は美鈴が好きだと言うことをリリアに教えた。
リリアは、美鈴の話を聞くと、クスッと笑った。
僕が理由を聞くと、リリアは
「だって、美鈴も凉平君のことが好き!っていってたから、おかしくなっちゃって。両思いじゃない。もう、これは告白しちゃって良いんじゃない?」
と、縁起でもないことを言う。
すると、リリアが急に僕の顔をジッと見つめた。
「あなた。何か、術を掛けられているわよ。なんか、眠れなくなる術とか。犯人は、あの人ね。あなた、犯人、教えて欲しい?」
僕は、少し迷ったけれどゆっくりと首を振った。
「ううん。やめておく。ここで、犯人を知ったら、なんか心が憎しみの色で染まってっちゃいそうで、怖いんだ。僕は、寝られるようになりたい。」
リリアは、
「あら。あなたは、本当に真っ直ぐで、良い人ね。あなたみたいな、優しい心を持っていれば、何事もうまくいくと思うわ。まあ、おしゃべりはここまでにして。ちょうど、言い宝石が見つかったの。術が掛けられているって気がついたときは、邪悪な物から身を守ることができるアレキサンドライトや化石、サンゴ、ターコイズ、クジャク石とかにしようかなって思ったけれど、あなたに合う物ではなさそうね。あなたに合う物は多分、アメジスト、つまり紫水晶ね。これは、恋愛にも効果があって、安眠効果があるっていうのも有名なのよ。それで、あなたはきっと私が欲しいものを持っているわ。それと宝石を交換するのが、私の店での常識よ。えーと、あなたから感じるのは…………あら。すごいわね。これはなかなか見つからないわ。ごめんなさい、ポケットの物を取り出してくれないかしら。」
と言った。
僕はポケットの中の物を全部だし、リリアに見せた。
すると、リリアはあるキレイなしおりに目がとまった。
「これだわ。はい、このアメジストはあなたの物よ。そうだ、アメジストは、日光に弱いの。だから、ちゃんと日光が当たらないようにしてちょうだい。」
そして、リリアはキレイな巾着でアメジストを包んでくれた。
僕は、リリアに礼を言うと、美鈴の家へ行った。
今日は、今度こそ告白できるかもしれない。
ピンポーン。
僕は、震える手でインターホンを押した。
すぐに美鈴が出てくる。
美鈴は、僕の姿を見て、驚く。
そして、まさかという顔をして、僕に聞いた。
「凉平君、宝石屋に行ったの…………?」
僕はうなずき、ついに美鈴に告白した。
「美鈴!僕、美鈴のことが好きです!!」
美鈴はポカンとした顔になる。
それから、おずおずと言った。
「私も、凉平君のこと、好きよ。」
そして、凉平と美鈴は、仲良く結ばれたのだった。
そして、実は。
リリアは、こっそり、凉平のアメジストに、邪悪な物から身を守れる魔法を掛けたのだ。
そして、満足そうな顔で凉平達を見た、リリアとルミアは店に帰ったが…………
店には、大きい子どもがいて、リリアの店の宝石を壊していたのだ。
しかも、美鈴からもらったクローバーも、ビリビリに破り、凉平からもらったしおりも、はさみで切り刻んでしまった。
リリアは怒りが爆発する。
「何しているの!勝手に店に入り込まないでちょうだい!」
男は、振り向いた。
男の顔は、怒りで赤く染まっている。
「こんな、宝石、いらないんだよ!こいつのせいで、凉平は術から身を守ってしまった!おまえの、こんな店がなければいいのに!」
その時、ルミアが前に進み出た。
「勝手に入らないで。もう、出て行きなさい。さもないと、のろい返しを食らうわよ。」
男は、一瞬たじろいだが、すぐに余裕の表情に戻る。
「ふん。おまえなんかに何ができる!」
ルミアは、呪文を唱えた。
「リンナイ、ナニモ、サリナ!!」
その瞬間、男は消えた。
さっきの呪文は、もうお店に二度と来れない、強力な呪文だったのだ。
それにしても、もう店はぐちゃぐちゃ。
なんとか、取引した物は蘇りの魔法で直せるものの、宝石にはそれが通じない。
ダイヤも、トパーズも、お店のあらゆる物が割れて、そこら中に必死で集めた念が散らばり、消えてしまっている。
リリアとルミアは。途方に暮れてすっかり変わり果てたお店をジッと見つめて、そのまま立ち尽くしたのだった。
迷ったリリアは、凉平と美鈴に電話を掛けてみて、お店の片付けをお願いした。
優しい凉平と美鈴は、すぐに引き受けてくれた。
リリアとルミアは、まずお店のドアに「閉店中」と書かれた札をさげ、それから割れた破片に気をつけながら、全部の部屋を見て回った。
どの部屋も、ぐちゃぐちゃにされ、窓ガラスが割れているところもある。
そして、お店の方に帰ってくると、前にスーツケースを持った美鈴と凉平が立っている。
美鈴は、お店の有様を見てすごくびっくりしている。
凉平も、開いた口が塞がらずにいる。
リリアは、ため息をつく。
「全ての部屋が、荒らされているの。簡単には片付きそうにもないわ。美鈴と凉平に今日、手伝ってもらっても、一週間ぐらいはかかるはず。しかも、どこから片付ければいいかわからないし。八方塞がりね。」
「大丈夫。美鈴ちゃんと凉平君、泊まるつもりで来ているみたいですよ。」
ルミアがリリアに声を掛ける。
リリアが顔を上げると、もうすでに二人は掃除道具や泊まるための服などを出していた。
リリアは、気持ちを切り換えて言った。
「じゃあ、まずは床に散らばっているガラスの破片をごみ袋に入れましょう。取引した物は、ルミアに蘇りの魔法を使って、直してもらうわ。だから、私達は店の掃除をしましょう。宝石は、残念だけど、リサイクルするしかないわ。大きい宝石や、ガラスはちゃんとトングで集めてね。小さい宝石は、ほうきで集めましょう。さあ、頑張るわよ!」
美鈴は、リリアよりももう少し細かく指示を出した。
「じゃあ、私は、ガラスの破片集めとサポート係を主にやるわ。リリアは、ほうきで小さい宝石を集めたり、宝石をリサイクルするところに持って行って。凉平君は、大きい宝石を集める係とサポート係よ。みんなで、力を合わせて頑張るわよ。今日は、全部床を片付けることを目標にしましょう。できなかった分は、明日にやればいいわ。」
早速、みんなは一斉に自分のやるべき事を始めた。
美鈴は、床に刺さっているガラスの破片を抜いて、ごみ袋に集めていく。
でも、ガラスの破片が刺さった床などは、もうボロボロだ。
しかも、窓にももう落ちそうな破片などがある。美鈴はそっと、窓に残っているガラスの破片を抜いた。
すると、他のガラスまで割れてしまった。
パニックになった美鈴は、逃げることができず、固まっている。
その時、凉平の声がした。
「あぶない!!」
そして強く腕を引っ張られた。
さっきまで美鈴がいたところには、とてつもない数のガラスの破片が刺さっていて、思わず美鈴は身震いした。
美鈴は、凉平にお礼を言った。
「凉平君、ありがとう。」
凉平は、照れくさそうにほほえむと、また仕事を再開した。
リリアは、ガラスの音が割れた音にびっくりして、こちらに駆けつけてきた。
「どうしたの!?美鈴、凉平、大丈夫?」
美鈴はうなずいて説明する。
「大丈夫。一つ、ぐらぐらしているガラスの破片を抜いたら、全部ガラスが倒れてきて、床にまた刺さっちゃったの。その時、凉平君に助けてもらったから…………」
リリアは、安心したように笑った。
「よかった。でも、そういう落ちそうな奴は、私がやるわ。美鈴は、床に刺さったガラスを集めて。」
そして、また掃除が再開した。
美鈴は、深く刺さってしまったガラスを抜こうとした。
でも、なかなか抜けない。
美鈴は諦めて、また他のガラスを抜きに行った。
その時、凉平がガラスの破片に足を載せてしまった。
凉平は、足の痛みにうずくまる。
美鈴は、慌てて救急箱を取り出す。
そして、凉平の足に絆創膏を貼り、手当てをした。
凉平は、お礼を言う。
「ありがとう。」
美鈴は、首を横に振る。
「さっきの、お返しよ。これで、もう貸し借りなし。」
そして、やっとお店はピカピカになった。
でも、棚にはまだガラスや宝石の破片が刺さっている。
美鈴は、パンパンになったごみ袋をごみ袋を置く場所に置き、また新しいごみ袋を二階からたくさん持ってきた。
ちょうど、凉平がごみ袋を置いたところで、タイミングバッチリだった。
美鈴は、新しい袋を持ってまたガラスの破片を集めに行った。
床を見てみると、凉平はかなりの数の宝石を拾ったらしく、かなりピカピカになっていた。
リリアは、もうとっくに違う部屋に行っている。
でも、床は結構、でこぼこで、壁紙も剥がれてしまっている。
そして、やっとお店の所の掃除が終わった。
その調子で、どんどんガラスの破片を集めていくけれど、一つの部屋が広すぎて、なかなか終わらない。
しかも、ルミアはまだ部屋に閉じこもっている。
なにやら、ブツブツと唱えているみたいだけれど、もう軽く掃除を始めてから2時間以上はたっているのに、休まずルミアはブツブツと呪文を唱えている。
そして、やっと1階の破片を集める事ができた。
気がついたときには、ごみ袋を置いたところは山のようになっていて、ちょっとびっくりしてしまった。
リリアは、ごみ袋を抱えて店の近くに止めてあるトラックの荷台にごみ袋の山を詰め込んでいく。
美鈴達は、二階へやってくる。
二階も、相変わらずとても散らかっている。
でも、少しお腹がすいてきた。
リリアは、冷蔵庫から残り物を取り出して、電子レンジで温めていく。
そして、目の前にはルミアがつくったらしい料理が並べられていた。
できたてじゃないはずだけど、すごく美味しい!
いつか、なんか普通の学校の食事とかが食べれなくなっちゃいそうだけど、たまにはこういう贅沢もいいかも!
美鈴達は、もぐもぐと食事を食べ、二階の掃除を再開した。
意外と、時間は掛からないかも!
そして、掃除が終わった頃には私達はヘトヘトになって床に倒れ込んだ。
その時、バタンとドアが開き、ルミアがでてきた。
ルミアは、しおりとクローバーを手に持っている。
「修復完了です。私、ちょっと疲れちゃったので、休んできます。」
やったあ!
美鈴達は、喜んでハイタッチする。
そして、大掃除第1日目が過ぎたのだった。
美鈴は、五時に目覚めた。
そして、ベランダに出て、下を見てみる。
下は、庭がある。
なんか、人工的に整えられた庭じゃなくて、どんな草も、のびのびと生きられるような、安らぎがある。
私は、ゆっくりと目を閉じてみる。
ザワザワザワ。
草が、花が、風に揺れている音がする。
私は、風に吹かれて、目に掛かった髪の毛を、かき上げた。
その時、草むらから、ぴょんと何かが飛び出した。
私は、すぐに着替えて、髪の毛をポニーテールに結ぶと、みんなを起こさないようにそっと階段を降りて、庭へ向かった。
庭には、たくさんの生物がいた。
ハリネズミ、うさぎ、鳥…………
私を中心に、動物たちが集まってきている。
そしてついに、うさぎが私に飛びついた。
「ふふっ。」
私の口から、笑え声が漏れる。
うさぎは、それに応えるように、耳をピョコピョコ動かした。
ハリネズミも、こちらに寄ってきた。
蝶も、私の頭の上をひらひらと飛んでいる。
鳥も、私の指にとまった。
こんな、町に動物がいるなんて…………
私は、うさぎをそっと抱きしめ、動物たちに別れを告げると、ベットに戻った。
今度、動物たちの話を書こう。
きっと、いいお話が書けるはず。
私は、そう思って、手帳に新たに追加した、「お話アイデアメモ」のページに「動物のお話」と書き込んだ。
ありがとう、動物さん達。
動物さん達のおかげで、いいお話が書ける。
そして、私は眠りに落ちたのだった。
「さあ、起きるわよ!」
リリアの声で私は目覚めた。
今の、庭に行ったのって、夢!?
私は、手帳を探す。
手帳には、ちゃんと「動物のお話」と書いてあった。
あれは、夢じゃなかったんだ!
私は、喜びで飛び起きた。
そして、大掃除2日目が始まったのだ。
「さあ、まずは、ペンキをトラックから全部運んで!それから、壁紙を塗り直しましょう!それから、窓ガラスもはめ直すわよ。今日で、もうお店はだいぶ片付くはずよ。また、行きたいときに宝石屋に行けばいいわ。あと、私は、宝石を探しに行ったりもしなくちゃ。危険なところには行かせられないけど、普通に行ける場所には一緒に行きましょう。」
リリアが言った。
私は、あの時パジャマに着替えずに寝てしまったので、みんなよりも一足先にペンキを運び始めた。
ペンキは、かなり重くて、持ち運ぶのが大変だった。
そして、みんなが運びに来ると、ペンキの数がぐっと減ったように見えた。
そして、やっとペンキを運び終えた私達。
もう、運び終えた頃にはだいぶ時間が経っていた。
私達は、必死に壁紙を変え始める。
床は、リリア達が、私達が帰った後にやってくれるらしい。
そして、やっと1階のペンキ塗りが終わった。
中でも凉平君はちょっと塗り方が大雑把で、下の方はほとんど塗られていなくて、途中でリリアや私が下を塗ることになった。
他にも、リリアがペンキを蹴飛ばして、その缶を、ペンキの海に、落としてしまったり、自分でもペンキの海を踏んで、滑ったり足の裏がペンキだらけになったりしたりといろいろ、トラブルはあったけれど、なんとか、ペンキ塗りは終わることができた。
そして、ついに私達は帰ることになった。
ちょっと寂しいけど、ここに来たおかげで、お話を考えられた。私はリリアに手を振って、外に出た。そして、凉平君と、おしゃべりしながら仲良く帰ったのだった。
僕、光は下校している時にため息をついた。
最近、夫婦げんかが多くなってきたのだ。
今日の朝も、些細なことでけんかが起きた。
きっかけは、お母さんが皿洗いの時にお父さんの大好きだった食器を割ってしまったということだった。
あの後のことは、正直思い出したくもない。
何で、自分の家族だけ上手くいかないんだろう。
他の子達は、帰るのが楽しそうに歩いている。
家に帰りたくない。
その思いが心の中を灰色にしていく。
その時、ある道が光った。
そこは通学路から外れている道だ。
普段は通らずにまっすぐ行くけれど、今日はそこの道に行くことにした。
少しでも、家にいない時間が長い方がいい。
特に、今日は。
道はひっそりとしていて、今の僕にはうってつけの場所だった。
僕は、ゆっくりと歩いて行く。
なにしろ、今まで通ったことのない道だ。
迷ってしまったら、大変なことになる。
携帯は持っているけれど、もし連絡をしたら怒られるだろう。
きっと、
「道に迷った?いつもの通学路を歩いていれば、そんなことにはならないでしょう!!寄り道をしたのね?寄り道をするなと、あれほど言ったのに!」
と言われるに違いない。
道が開けると、そこには家みたいなのがあった。
「宝石屋」と書いてあるから、店なのかもしれない。
でも、入ることは許されない。
寄り道をしたら怒られる。
時間が守れなかったら、お母さん達は激怒してしまうだろう。
ただでさえ、ピリピリしているのに、そんなことになったら今度こそ家を追い出されてしまうかもしれない。
でも、その店が放つオーラは、そんな不安もかき消してしまうような強いものだった。
少しだけ、入ってみよう。
結局、好奇心に負けて店の中に入ってしまった。
中に入ってみると、色とりどりの宝石が並んでいた。
燃えるようなルビー。
夜空のようなタンザナイト。
太陽の光みたいなトパーズ。
ありとあらゆる宝石が、そこには並んでいた。
すると、奥から女の子が出てきた。
女の子は、ニコッと笑う。
明るくて、優しい笑顔。
僕の家では、金輪際見られないような光景だ。
その女の子は話し始めた。
「ここは、宝石屋。私が欲しい宝石の材料とここに売っている宝石を交換する場所。悩みがあるなら、話してちょうだい。それで、その悩みに合わせた宝石をあげるから。」
それは、なんとも魅力的な話だった。
普通ではありえない話。
でも、問題がある。
「家に帰るのが遅くなったら、お母さんに怒られてしまうんだ。」
「あら、それなら問題ないわ。ここ、時がゆっくり流れてる特別な場所だから。」
女の子は、すぐに応えた。
でも、こんな不思議な女の子がやっている店だから、そういうサービスはしてくれているのかもしれない。
女の子は僕を奥に招き入れてくれた。
奥は、暖炉や机、いすなどがあって落ち着けるような場所になっていた。
暖炉の側に行くと、体がだんだんとじんわり温まっていく。
すると、女の子がドアに向かって声を掛けた。
「お客さんよ、ルミア。お茶とお菓子を用意してくれる?」
ルミア?
僕が不思議に思っていると、女の子が笑顔で自己紹介をしてくれた。
「私は、リリア。宝石屋を経営しているの。今、呼んだのは手伝ってくれているお菓子作りが大好きな子。ルミアっていうの。」
「宝石屋って、魔法のお店?」
僕が不思議に思って聞いてみると、リリアは首をかしげる。
さっきみたいに、即答するのかと思っていたけれど…………
リリアは言葉を選びながら言う。
「そうね。魔法はかかっているけど、魔法のお店ではないわ。幻ではないから。しかも、実際に存在しているお店だしね。それに、宝石も本物よ。ダイヤモンドも、一応置いてある。かなり高価で、それ相応の物を持っていないと、渡してあげられないんだけどね。」
だいたい、お店のことはよくわかった。
一瞬、宝石を買おうかという気持ちが出てくる。
でも、仮に宝石を買ったとしてお母さんにばれたら、ものすごい怒られて、すぐに売られてしまうだろう。
もし、すぐにばれなかったとしても…………いつかは、絶対にばれてしまうはずだ。
そう僕が考えていると、リリアが心配そうに僕の顔をのぞき込んできた。
「どうしたの?」
僕は、うつむいてしまう。
家庭の話は、今まで誰にもしたことがない。
そんなことを喋ったら、みんなから無視されてしまうかもしれないから。
いざ、話をしなくてはいけないとなると、やはり緊張してしまう。
みんなにこの事がばれるんじゃないか。
リリアにその事を話した瞬間、宝石をもらえなくなってしまうんじゃないか。
様々な思いが、心の奥底で渦巻いている。
正直言って、誰かにこの秘密を話したかった。
本当の自分でいられなくて、苦しい。
家庭の話を聞いただけで、胸が痛んでしまう。
そんな苦しい思いを、誰かに聞いてもらえれば、どれだけ心が軽くなるだろう。
そして、気まずい空間になると同時に、ドアが開いて女の子が入ってきた。
その子は水色の髪の毛の子だった。
でも、水色ではない。
海のような色。
それでいて、静かさ、清らかさに満ちている。
その子は海のような髪の毛をふわふわとカールさせて、ポニーテールにまとめていた。
その子はお茶とお菓子を持っている。
この子は、多分…………ルミアのはず。
ルミアはティーセットを机に置いてくれた。
「これは、バタフライピーといってレモンを入れると色が変わるお茶です。フルーツパフェもあります。」
ルミアの声はやはり、きれいな声だった。
流れるような美しい声。
僕がボーッとしていると、リリアがバタフライピーにレモンを入れてくれた。
お茶の色が、深みがある宇宙のような青色から高貴さに溢れるすみれ色に変化する。
僕は、フルーツパフェを見てみる。
フルーツパフェは、目が釘付けになるほどの素晴らしさに溢れていた。
メロン、ドラゴンフルーツ、オレンジ、パイナップル、リンゴ、マスカット、イチゴ、ぶどう。
あらゆるフルーツが盛り付けされている。
リリアはパフェを少し食べ、バタフライピーを一口のみ、話を切りだした。
「悩みがあるんでしょう?絶対に、誰にもばらさない。だから、聞かせて。ある程度、その悩みを聞いたらあなたが望んでいる宝石を見つけられるから。」
もう、そこまで言われて話をしないわけにはいかない。
もし、うその話をしたらリリアはそれを信じ込んで間違った宝石を僕に渡してしまうだろう。
なら、本当の事を言うしかない。
僕は、ぽつりと声を漏らした。
「家庭が、不安定な状態なんだ。」
リリアは僕に聞いてくる。
「そうなったきっかけ、今どんな状態か、どんなことをしたいか。全部教えてちょうだい。」
僕は、パタフライピーを一口飲んで話し始めた。
「僕が6歳くらいになる前は、普通の家庭だったんだ。幸せな家庭で、僕も悩み1つ抱えていなかったんだ。でも。その後、事件が起きたんだ。これまで浮気1つしなかったお母さんが別の人にも恋心を抱いてしまって、こっそりデートをしてしまうことに。それで、用心深いお父さんはすぐに気がついて、それからけんかが始まったんだ。もちろんお母さんも、すごくお父さんに誤ったけど、それからどんどん仲が悪くなっていたんだ。あの、幸せだった日々がうそに思えるくらいの、毎日だった。今では毎日、家でけんかが起きている。今朝なんて、お皿が割れただけで大げんか。もうあの日々は耐えられないんだ。」
リリアは。さすがに驚いたみたいだった。
「お皿を割っただけで大げんか?どうしたら、そんな仲になっちゃうのかしら。」
僕は、話を続けていく。
「確か、お母さんが皿洗いの途中に、お父さんの大好きな食器を割ってしまったんだ。その音で、お父さんがやって来て…………それで、お皿を見た瞬間に『なんだ、これは!!この食器は、扱いに気をつけろと言ったのを、忘れたのか!?前も、食器を割ったじゃないか!そんな頻繁に食器を割っていたら、お皿がなくなる。こっちは、必死になってお金を稼いでいるっていうのに。そちらだけ、得して不公平だ!』ってけんか腰で言ったから、お母さんも腹が立って『何よ!?そんなに、文句ばっかり言って!!そんな大事なら自分で食器を洗いなさい!毎日毎日、どれだけの食器を私が洗っているのか、想像できる?毎日、すごい量なのよ!しかも、家事は私にばっかりやらせて。こちらは必死にお金を稼いでいる?私なんか、家事、子育て、すごいたくさんのことをやっているの。馬鹿にしないでくれない?すごく大変だってわからないのかしら?』とかそんなことを言って大げんかになったっていう感じ。それで、お母さんがすねちゃって今日の朝ご飯はつくってくれなかったんだ。お父さんも、怒って会社に行っちゃって。僕も仕方なく、朝ご飯抜きで学校に行ったんだけど、やっぱり家族がけんかしているところを見ていると、気が重くなっちゃうんだ。夫婦げんかが、なければいいのに。今の状況では、誰も得していない。僕は仲が悪いのを見たくないし。お母さんやお父さんも、もともとはいい性格だったのに。また、仲良くできれば…………うまくいくはず。もう、あんなけんかを黙ってみるのなんて、もういやなんだ。どうにかして逃れたい。あのけんかを、止めたい。」
こんなに、スラスラ言えたのは初めてだった。
そして、何より苦しくて心にとりついていた嫌な事を、言えた。
するとリリアが少し考えて、ある宝石を紹介してくれた。
「これは、アクアマリン。家庭を豊かにしてくれる宝石。威力は絶大よ。試してみて。」
アクアマリンは、水のようなきらめきに満ちていた。
リリアは、ニコッと笑うと
「まだ、フルーツパフェは残ってるわ。もちろん、バタフライピーも。」
と言ってくれた。
僕はフルーツペフェを食べ終わると、店の方へ連れて行ってもらった。
リリアはカウンターにアクアマリンを置き、僕の方を見る。
「あなたは、きっと取引できるくらいの価値の物を持っているわ。」
僕は、ランドセルの中身を取り出す。
すると、リリアの手がある物に触れた。
「これよ、取引できる物は。」
それは、僕のお気に入りの宝物だった。
お母さんとお父さんがまだ仲がよかった頃につくってもらったキーホルダー。
正直、そのキーホルダーとは交換したくなかった。
でも、アクアマリンが力を発揮したらまた楽しかった生活が元に戻る。
だから、我慢しなくちゃいけない。
「交換、します。」
僕がやっとの思いで言うと、リリアは今までで一番かわいい笑顔を向けた。
「ありがとう。これには、とてつもない思いが入っている。これを、宝石達にあげたら、元気になるはず。」
僕は、お礼をして店を出て行こうとする。
すると、リリアが僕を呼び止める。
「ストップ!!説明書は、ちゃんと読んでちょうだい!」
僕は、
「わかった。」
と返事をして、家に帰ったのだった。
家に帰ったら、もう約束の時間を過ぎていた。
宝石屋に、長くいすぎたせいかもしれない。
予想通り、さっそくお母さんが怖い顔で仁王立ちしていた。
「光!!なんで、こんなに遅くなったの!?寄り道したり、友達と遊んだりしていたわけ?手で握っている物は何よ?」
普段ならお母さんのお説教を聞いているけど、今はそんな時間がない。
僕はお母さんの体をくぐり、自分の部屋に駆け込んだ。
早くしないと、お母さんが来てしまう。
そして、アクアマリンを取り出したところでお母さんに見つかってしまった。
「何かあると思って見てみれば!!宝石なんか買って。お母さんの言うことがわからないの?そんな宝石を買うお金があるなら、もっと役に立つ物を買いなさい。この宝石は、売りに行くわよ。宝石はお金になるんだから。」
僕は、ぎゅっと拳を握りしめて言った。
「売るなんて、しない。それに、これは、役立つ宝石なんだよ。」
お母さんは、僕をにらみつけ、怒鳴る。
「売るなんてしない?役立つ宝石?宝石なんて、日常では使わないでしょ。売らなきゃお金が儲からないの!親の苦労をわかってないの?」
僕は、後ずさりする。
でも、ここで負けたら家族の絆を元に戻せない。
「これは、家族の絆を取り戻すために買ったの、宝石屋で。宝石屋で売っている宝石は、その宝石の意味をそのまま叶えてくれるっていう宝石を売っているの。最近、お父さんとお母さんはけんかばっかり!だから、これを買ったんだよ。この宝石は、アクアマリン。アクアマリンには家庭を安定させることができる。だから、買ったのに。僕の大切な宝物とまで交換して、もらったのに。なのに、売るなんておかしいよ!!」
さすがのお母さんもびっくりしたみたいだった。
お母さんは、声を絞り出す。
「どれだけ、お金がないと困るか、わからないの?」
僕は、はっきりと言う。
「わからない。お金がないと困るけど、家族の絆がないと、もっと困る。いつも、ピリピリして、意見とかを激しくぶつけ合って。そんな
家庭で、お金が儲かると思う?」
てっきり、お母さんが怒ると思ったけど、お母さんは僕に抱きついてきた。
「ごめんなさい、毎回毎回けんかばっかりして。あなたが、こんなに辛いと思っていたなんて。」
まさかと思い、僕は手に握っていたアクアマリンを見てみる。
アクアマリンは、光っていた。
今にも部屋中が波でいっぱいになるような輝きを放って。
そして、説明書を見てみるとそこにはいろいろな事が書いてあった。
「アクアマリンは、家庭が不安定な人に便利な宝石でしょう。波のように、悪い邪気などを追い払い、幸せな家庭にしてくれます。ですが、このアクアマリンは自動的に効果が出るのではなく、持ち主を手助けさせるための宝石。あなた自身が頑張って幸せな家庭にしてください。そして、本人がこの宝石を買ったのを悔やんだ場合、宝石は自動的に消えていしまいます。なので、そこはご注意を。」
よかった。
勇気を出して、自分の気持ちをお母さんに伝えれた。
もう、大丈夫だ、この家庭は。
きっと、幸せになれる。
ガラリ。
見知らぬ家に、私・美奈は鳥肌が立った。
私は、かなりの恥ずかしがり屋。
それなのに、転校することになってしまったのだ。
転校早々、大恥をかいたら…………
と思うと、どんどん気分が重くなってくる。
しかも、今は10月。
こんな中途半端な時に転校をしてきて、目立たないわけがない。
本当は、転校なんてしたくなかった。
そもそも、私の性格には絶対合わないし、大がかりな計画になる。
それが嫌で、何度も親に頼んでみたけれど、全然許してくれない。
ただ、
「大人になったら、どこかに引っ越してもいいわ。でも、今は我慢して。」
と言われるだけ。
私は、気を重くしながら荷物の整理整頓をしていた。
すると、外からリンリンという鈴の音が聞こえてきた。
ベランダの方からだ。
私は、ベランダの窓を開けた。
そこには、紺色の毛並みを持った動物がいた。
その首に、水色とピンク色が混じった鈴が付けられている。
どうやら、さっきの音はここからしたようだ。
こんな生き物、見たことがない。
私は、かなりの動物好きで知らない動物はないというくらい、動物に詳しいのに…………
そう思っていると、動物は地面に足を付けた。
乗っていいよ、というような身振りに見えるけれど…………
これは、誰かが飼っている動物かもしれない。
なら、勝手に背中へ乗せてもらうわけにはいかない。
私は、動物に言い聞かせた。
「飼い主のところに戻って。心配しているかもしれないから。」
動物は、相変わらず空色の瞳で「乗って」とせがんでくる。
私はついに根負けして、背中に乗ってみた。
すると、その動物は勢いよくベランダから身を投げた。
「えっ!?」
私はびっくりして、大声を上げてしまう。
けれども、動物は落ちなかった。
ふわふわと宙に浮かんでいる。
そして、どんどん掛けだしていった。
私の家がどんどん遠ざかっていく。
すると、シャボン玉のトンネルが見えてきた。
シャボン玉の中を、動物が走っていく。
そして、ある家の屋根へ着地すると、それから飛び降りた。
また、宙に浮かぶだけかと思っていた私は不意を突かれてしまった。
動物はそのまま落ちていったのだ!
私は、びっくりする。
黒髪がふわりと浮く。
そして、着地した瞬間ジーンという痛みを感じた。
動物は私に「降りて」とお願いしてきた。
私は、動物の体から降りると、目の前の家をまじまじと見てみた。
店の看板には、「宝石屋」と書かれていた。
中は、ものすごく明るかった。
全部、宝石が放つ光だ。
私は、一時期、石に興味を持ったことがあったから、石の事については詳しい。
「トパーズ、別名が黄玉、アクアマリン、ヒスイ輝石、サファイア、別名、コランダム、ターコイズ、別名、トルコ石、トルマリン、別名、電機石、ガーネット、別名、ざくろ石、ルビー、別名、コランダム、タンザナイト、ラピスラズリ、ジルコン、ヘマタイト…………」
次々に店の宝石の名前を言っていると、奥からおしゃれな服を着た、女の子が姿を現した。
パッと見ると、普通の女の子にしか見えない。
でも、どこか他のみんなとは違うオーラがあった。
その子は、自己紹介をした。
「あなたは、ルミアに乗ってきたのね。私は、リリア。宝石屋っていう店をやっているの。ゆっくりしていってちょうだい。さっき、ルミアが焼いたクッキーと、おいしいパフェがあるから。もちろん、お茶も出すわ。」
私は、はっと後ろを見る。
後ろには、たしかあの動物がいたはず…………
でも、その動物はいなかった。
ただ、その子にすごく似た子なら、いた。
さっきの動物の毛並みの色と、同じ髪の毛の色の子。
どういうこと?
すると、リリアが困惑している私を奥の部屋に連れて行った。
奥の部屋は、ふんわりとした匂いに包まれていた。
私は、ゆっくりといすに座った。
リリアが、熱々の紅茶を私のティーカップ注いだ。
すると、それを待っていたのようにルミアがクッキーとパフェを運んできた。
パフェにはたくさんおフルーツが載っていた。
リリアがニコッと笑って、言った。
「たぶん、緊張していると思うから、少しクイズ。このパフェに乗っているフルーツの種類を、答えてちょうだい。」
私は、じっくりとフルーツを観察した後、答えを並べ上げた。
「シャインマスカット、ぶどう、ピンクグレープフルーツ、ホワイトグレープフルーツ、みかん、ドラゴンフルーツ、キウイ、ゴールドキウイ、いちご、桃、サクランボ、いちじく、マンゴー、パイナップル、パッションフルーツ、りんご、梨、スイカ、メロン、びわ、バナナ、レモン、ライム、ざくろ…………?」
すると、リリアがパチパチと拍手した。
「お見事。ほぼ正解よ。ここまで正確に答えた子は、今までにいなかったわ。1個目のシャインマスカットは、白ぶどうだったの。それ以外は全部正解。」
やった。
私がガッツポーズをしていると、リリアがにっこりと笑って私に言ってきた。
「ほら、緊張が解けたでしょう?」
私は、こくりと頷いた。
不思議な事がたくさん起こるから、緊張しかしていなかったのだ。
リリアは、紅茶を一口飲むと
「この紅茶もクッキーも、パフェも全部美味しいから、食べてみて。」
と言ってきた。
私は紅茶を一口飲んだ。
その瞬間、澄み渡るようにすがすがしい味が、口の中に広がった。
美味しい。
これほどまでに、美味しい食べ物は、食べたことがない。
私は、クッキーをかじった。
「これは…………ホワイトチョコ?」
私が呟くと、リリアがお茶を飲みながら
「正解。」
と言った。
けれども、お茶を飲みながらだったので、
「ふぇいまい。」
としか聞こえなかった。
そんな様子に、私はクスッと笑うと、パフェのクリームとフルーツをスプーンですくった。
ふわり。
クリームの優しい感触がした。
クリームはごてごてと甘すぎず、さらりとしていた。
だけど、味にはなんか深みがある。
フルーツ、今食べたのは白ぶどうだけど、その味がまた最高だった。
シャキッとした、かみ応え。
それと同時に、酸味が溢れていくる。
でも、キンとしすぎず、甘さもちゃんとある。
そして、私がクッキーとパフェを食べ終わると、リリアが最初に会った時みたいなキリッとした表情になった。
私の体も引き締まる。
リリアは、首をかしげた。
「え~と、あなたの名前は…………?」
「美奈、です。」
私は答えた。
リリアはこくこくと数回頷くと、前置きをした。
「じゃあ、美奈。さっき、宝石屋っていう店をやっているって言ったでしょう?」
私は、こくりと頷いた。
リリアはそれを確かめると、本題に入った。
「宝石屋はね、私達がここで売っている宝石を、お客さんに買ってもらうの。それで、その宝石にはそれぞれ、力があるのよ。例えば、ローズクォーツだと…………」
リリアがそれを言い終わる前に、私は思わず話を遮った。
「ローズクォーツ、紅水晶だと、恋とかに効くんでしょ?それで、化石とかは邪悪なものから身を守る効果がある。ガーネット、通称ざくろ石は、大切な人の絆を深める効果がある。」
リリアは、しばらく目を丸くして私をじっと見ていた。
そして、しばらくすると我に返り、
「美奈って、宝石の事、本当に詳しいのね…………」
と言った。
そして、続けた。
「それでね、その力を使ってお客さんの願いを叶えてあげるのが、仕事なの。でもね、お代はちゃんと頂くわよ。多分、美奈は私に必要な物を持っていると思うの。つまり、美奈が持っている物と、私の持っている宝石を交換するっていうこと。ちなみに、その宝石が価値が高くなるほど、お代も高くなるから、その事は忘れずに。」
「それで、美奈はどんな悩みを抱えているの?」
私は、少し迷いながら悩みを口にした。
「私、けっこう内気なの。それで、転校してきたんだけど、友達が作れないんじゃないかって思って。それで、その子とずっと仲良くできるといいなって。」
リリアは、頷いた。
「つまり、美奈は勇気を出して、友達を作りたいっていうことなのね?」
私は、首を横に振った。
「違うの。必ず友達になれるってわかれば、多分自分で話しかけられると思うんだけど、すぐに友達をやめる子と友達になっても、辛いだけだから…………」
リリアは、再び、今度はゆっくりと頷いた。
その目には、迷いが宿っていた。
リリアは、その瞳のまま、棚にある物を手に取った。
それは、ダイヤモンドだった。
「こんなに高い物、私、買えない!」
私が叫ぶと、リリアは手を差し出した。
「ここでは、お金では取引しないわ。今、持っているものを取り出して。」
私は、ポケットに入れていた物をリリアの手に落とした。
リリアは、そこから金色に光るキーホルダーを手に取った。
あっ、それは…………
私が、死んでしまったおばあちゃんからもらったキーホルダーだ。
リリアは、キーホルダーを自分の所に置くと、ダイヤモンドを差し出した。
「これで、取引するなら、ダイヤモンドは美奈の物よ。でも、美奈、一度友達になった子とは、二度と離れられないくらい、そのダイヤモンドの力は強いの。気をつけて。」
そう言うと、キーホルダーを手に持って仕事部屋に行こうとした。
「待って。リリア!」
私は、今まで出した事のないくらいの大声を出した。
さすがのリリアもびっくりしたみたいで、
「ど、どうしたの?」
と少し困惑がにじんだ声を出した。
私は、少し声の大きさを小さくし、なるべく冷静さを保って言った。
「待って、リリア。やっぱり、この取引は無しにする。」
リリアも、そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
目を見開いて、私を見つめていた。
私は、リリアに言った。
「そのキーホルダー、死んじゃった私のおばあちゃんからもらったキーホルダーなの。すごく、すごく大切にしていて…………そのキーホルダーをリリアにあげたら、ものすごい後悔すると思うの。それに、さっきリリアの言った言葉も気になるし。私、ダイヤモンドがなくても、ちゃんと友達を作れるように、頑張る。全部、人任せにしない。だから、そのキーホルダーを返して。」
リリアはしばらく私を見つめていたけれど、キーホルダーを私に返してくれた。
よかった。
私の、一生の宝物。
また、私の手に戻ってきてくれたんだね…………
私は、キーホルダーの代わりにダイヤモンドを机の上に置いた。
そして、ゆっくりと宝石屋のドアノブに手をかけると、引いていった。
それと同時に、景色が薄れ始める。
私は、もう薄くなっていく宝石屋のドアの向こうにむかって言った。
「また、会おう、リリア。」
「うん。また、会おう。」
薄く、小さな声が、聞こえてきた。
リリア。
一生の、友達。
リリアと会えなくても、リリアの事、絶対忘れないからね。
そう思って、私は家に向かって歩を進めた。
「美奈、また会えたらいいんだけど…………」
リリアがつぶやいた。
すると、ルミアが爽やかな笑顔を浮かべた。
「私も、美奈にまた会いたい。今度、美鈴と凉平も連れてここでお茶会をできたらいいなって思っている。」
「同感よ。」
リリアが呟いた。
そして、2人でにっこりと笑い合ったのだった。
第6章:欲望にまみれたエメラルド
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